多くのビジネスは、短期的な儲けや効率性、収益性といったものを第一の目的としています。経済を語る時に当然のように出てくる指標にGDPがあります。これは、その国内でどれだけの生産をしたか、どれだけの儲けを生み出したかを測るものです。GDPが上がるほど経済は発展すると考えられ、それが社会や人々の豊かさにつながると考えられています。
しかし、皆伐による森林の消滅、地下水の大量な汲み上げによる水不足や塩害、地盤沈下、過剰な放牧による砂漠化、エネルギー浪費による二酸化炭素排出の増加などの環境負荷が高まってもGDPは上がります。なぜなら、そこで生産がなされ、収益が上がっているからです。
象徴的な例を一つ挙げましょう。昔は、水を買う必要などありませんでした。井戸や川にはきれいな水があったからです。でも、現在は汚染が進んだために、私たちはスーパーマーケットやコンビニエンスストアで当たり前のようにボトル詰めのミネラルウオーターを購入します。自然資本である水が特定の企業によって商品化されているのです。河川の汚染と並行してボトル詰めの水が売れればGDPは上昇し、経済は発展しているとみなされます。そして、そのボトル水の生産には膨大なエネルギーが費やされているのです。
人間は地球に住み、さまざまな自然環境から恩恵を受けています。科学が発達して、人間が自然を征服したかのように思いがちですが、生態系や自然が提供する資本(水や樹木、土壌、生物、空気)やサーヴィス(樹木による土壌の保全、水の循環、森林の酸素供給、水や空気の浄化)、生命システム(生物多様性や植物多様性)がなければそもそも経済活動やビジネス自体が成立しないのです(ホーケン他、2001)。
これは考えてみれば当然のことです。しかし、この当然のことが意識されず、無視されているのではないでしょうか?
ビジネスの拡大が環境破壊を日々生み出しています。これまで「大量生産・消費、高速」社会のレールの上をわき目もふらずに走ってきた私たちは、そろそろそれらの競争から降りて、自然のペースやリズムと調和した「スローなビジネス」へと転換する時機にきています。エコノミー(経済)がエコロジー(自然)を支配しているのではなく、エコノミーはエコロジーの一部にしかすぎないのです。
・・・「ROR公式資料集」目次へ戻る・・・