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世話人・中村隆市のコラム


フェアトレードでつながるとはどういうことか

今日は、皆さんにお伝えしたい大事な話があります。(長文です)
それは、あるフェアトレードの現在進行形の実例であり、「フェアトレードで生産者とつながるということは、どういうことか」を学ぶ、生きた教材でもあります。また、これからSBSにとって重要な価値観となる話も含まれています。

今、SBCのウェブショップ「膳」で、インタグコーヒーが紹介されています。
http://shop.slowbusiness.org/index.php?main_page=product_info&products_id=379

そこには、こんなことが書かれています。
「生産国は南米、ペルーの北に位置するエクアドルです。アグロフォレストリー(森林農業)と呼ばれる方法で育てられるこのコーヒーの生産者は、開発による破壊から自然を守ることを目的に結成された、コタカチ郡のインタグ地区有機コーヒー生産者協会のメンバーです。」

この協会をつくった中心人物であるカルロス・ソリージャさんの自宅が鉱山開発派らしき者たちによって「襲撃」されたという報が届きました。その詳しい内容をお知らせする前に、どのようにしてフェアトレードが始まったのか、ということを振り返っておきましょう。

1998年11月、福岡で開催した「有機コーヒーフェアトレード国際会議」に私はエクアドルからインタグコーヒー生産者協会代表とアウキ知事を招待しました。彼らは当時、日本のODA(政府開発援助)と日本企業による「鉱山開発」という名の自然破壊と闘っていて、「開発をくい止めるためには、日本の多くの市民が自然破壊をやめるように意思表示すること。そして、貧困層が90%に近いインタグでは、自然と共存する形での経済的な発展を住民に提示する必要があるので、有機農業やエコツアーを広めるために、みなさんの協力をお願いしたい」と会議で訴えました。

この会議に、エクアドルのゲストたちと同行してきた見知らぬ2人が参加していました。それが、文化人類学者の辻信一さんと環境運動家のアンニャ・ライトでした。(この2人にビジネスマンである私を加えた3人が翌年「学問と運動とビジネスの融合」を目指すナマケモノ倶楽部を設立することになります。)

初めての出会いから3ヵ月後、辻さんとアンニャが企画するエクアドルツアーに参加した私は、インタグコーヒーの産地を訪問し、世界的にも貴重な熱帯雲霧林を歩き、30人程の生産者と語り合いました。「鉱山開発は、一時的には住民にお金をもたらすだろう。しかし、森林を伐採して、地下資源を掘ってしまったら破壊された自然と重金属で汚染され土地しか残らない。ここで生き続けることができなくなる。私たちは、この美しい自然を子どもたちに残したいんだ」という熱い想いに触れることができました。

彼らは、鉱山開発から森を守るために、森林農法で栽培する有機コーヒーを適正な価格で継続して買ってくれる相手を探し求めていました。その気持ちはよくわかりました。しかし、生産者協会をつくって日が浅く、組織的な運営が未熟で、資金もなく輸出経験もない彼らとフェアトレードを開始することは、様々な困難を引き受けることであり、それに加えて、このフェアトレードは鉱山開発勢力との「闘い」に参加することでもありました。

もし、誰かに相談したら、こんなふうにアドバイスされたでしょう。「やりたい気持ちはわかるけど、今、始めるのは危険だ。ウィンドファームがつぶれちゃったら元も子もないないから、もう少し生産者協会の体制が整って、鉱山開発問題が落ち着いてからフェアトレードを始めた方がいいよ」と。

さまざまなリスクを慎重に検討し、安全な状態になってからフェアトレードを開始する。それが、従業員の生活に責任を負う経営者がとるべき態度なのかもしれません。しかし、インタグの自然を守ろうとする人たちには、今すぐにも提携する相手が必要でした。

「皆さんがつくった有機コーヒーは、すべて買い取ります」という私の言葉を生産者の側で聞いた辻さんは「いきなり取引の話が成立してうれしかった反面、中村さん、そんなことをもう決めちゃって大丈夫?」と思ったそうです。「大変なことになるかもしれないけど、なんとかなる」という直感が私にはありました。

1970年代後半から「生産者」と「消費者」のつながりを強める提携運動やフェアトレードを続ける中で、とても重要なあることに気づきました。それは「モノやカネとの付き合いではなく、人と人との付き合いができるかどうか」そして「目先の利益や個人的な利益で動かず、皆の幸せを考えて行動する人がグループの中心にいるかどうか」それが、フェアトレードを成功させる重要な要素だと気づいたのです。

インタグには、それを絵に描いたような人がいました。カルロス・ソリージャその人です。森の中に家族と暮らし、私欲がなく、自然を愛し、それを守るために淡々と活動する彼がいたからこそ、私は、インタグコーヒー生産者協会との提携をその場で決断することができました。

このツアーに参加して、カルロスと出会った和田彩子さんや渡邉由里佳さん(当時大学生)は、現在エクアドル駐在員やエコツーリズム担当理事として、ナマケモノ倶楽部で活躍しています。(2人はSBS学生でもある)

先月下旬、エクアドルを訪問していた私は、その和田さんと、横山理絵さんと共にカルロス宅を訪問し、彼と愛妻サンディ、15歳の息子マルティンとたのしい食卓を囲みました。

そのとき、カルロスファミリーとこんな話をしました。
「豊かさのモノサシ」をGNP(国民総生産)などの「モノ・カネ重視」からGNH(国民総幸福)のような「ココロ重視」に転換することができれば、未来世代のいのちや自然環境がもっと大事にされるだろう。

「いま日本では、核燃料の再処理工場が試験的に稼動し始めて、膨大な量の放射能を大気中や海中に放出し始めている。自然を汚染し、子孫の健康や生命を脅かす大問題にもかかわらず、マスメディアはその危険性をほとんど報道しない。電力会社や原発をつくっている三菱、東芝、日立などの大企業スポンサーとの関係悪化を恐れているのだろう。そして、日本人の多くは忙しくて、この問題をじっくり考えることができない。

日本人が忙しい原因にもGNPやGDPの「量を重視する考え方」がある。一つの経済指標に過ぎなかったものが、いつのまにか政治、経済、社会を方向付けるほどに大きな力を持ってしまっている。そもそも経済というものは、人間を幸せにするためにあるはずなのにGNP、GDPというモノサシは、人々を不幸にしているのではないか。
「何が私たちに、本当の豊かさをもたらしてくれるのか」
「何が私たちに、本当の幸せをもたらしてしてくれるのか」

これからはGNP、GDPに替わる<本当の豊かさのモノサシ>のヒントになるGNHという考え方を広めていきたい」といった話をしました。

そして、カルロスファミリーに「ハッピーだと感じるときやハッピーだと思うこと」を聞いてみました。以下が、彼らの答えです。

マルティン(15歳)
1、家族がいること
2、いっぱい本を読むこと
3、かっこいい犬を持つこと
4、いろんな人が家に遊びに来てくれること
5、いっぱい虫がいる所に住めること
6、旅行すること
7、世界中のすべての人が、ここみたいに自分を受け入れてくれるコミュニティを持つこと。
8、過去に犯した間違いを未来に繰り返さないこと

サンディ
1、本当に幸せなのは、自分のことだけでなく他者のことを考え実行すること
2、自分の村や国だけでなく世界のことを考えるようになること
3、毎日、いろいろな(多様な)時間を持つこと
4、手づくりのものをつくること
5、畑仕事をすること
6、散歩をすること、散歩する森や山道があること
7、自分で食べ物をつくること

カルロス
1、好きなことをする時間があること
2、健全でつよいコミュニティの強いつながり
3、きれいな環境
4、森があって、鳥がいる所に住めること
5、家族といい関係を持つこと
6、インタグが、鉱山会社が入る前の状態に戻ること
7、人間と自然が親しくなること

この話をしているとき、カルロスファミリーにはハッピーな笑顔がありました。それから3週間後に鉱山開発派らしき者たちによってカルロス・ソリージャさんの自宅が「襲撃」されました。

その詳しいリポートの翻訳が、和田彩子さんから届きましたので皆さん、読んでみて下さい。そして、あなたにできることを実行していただければ、うれしいです。ナマケモノ倶楽部からの呼びかけも添付しておきます。私も自分にできることを実行していきます。

引き続き、関連情報を流していくことになると思いますので、関心を持っていただければ幸いです。

弁護士費用などの寄付をされたい方は、以下の口座に「カルロスさんへの寄付」と書いて振り込んで下さい。
まとめてエクアドルに送金します。

<振込先:郵便口座>
加入者名:ワールドエコロジーネットワーク
口座記号:01750-7
口座番号:93698

■和田彩子さんが訳してくれたレポートはこちら

■エクアドル大使館あてに真相究明を促すメール雛形と送り先はこちら

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