ピラチカ宣言 2003年12月
日本の南の端にある、西表島。
台湾と同じ緯度に位置し、周囲130キロ、日本最大級のマングローヴ林を抱く。
ピラチカとは、この島の言葉で「ナマケモノ」の意味だ。
島のまん中に動脈のように流れる浦内川という、淡水。
毎日大きな夕日を見送るアジアの玄関大平洋の、海水。
2種類の水が混じりあう汽水域には、マングローヴが聳え、
その塩分濃度は、晒す織布をここにしかない色で留まらせる。
海底に沈む貝塚の昔から、芭蕉を織る機の音と、その衣を着て踊る唄や三線の音。
唄の中の話では、昔、海で暮らしていたイノシシが、
山に住んでいたジュゴンと、お互いの住む場所を交換したという。
今では、イノシシを狩りに、縄張りの山へと男が出かけて行くのだが
途中でセマルハコガメに出くわすと、一度家までひきかえさなければならない。
この島は、命の速度を越えないように、神様に見守られているのだ。
太陽と土が全てを育ててくれる。人間は「待てるかどうか」だけ。
潮の満ち引きに合わせて、亀の産卵に合わせて、
子供の成長に、そして人の老いに合わせて、
猟をし、耕し、唄い、食べ、愛しあい、祈り、暮らす。
ある時、ピラチカに出会ったナマケモノは、集まって考えた。
イノシシやジュゴンのように、住む場所を交換することはできないけど、
自分もピラチカになりたい。島からヒントをもらおうと。 |