RORキャンペーン
ファイナル(2003/12/07)報告 |
「なかなか来場者が帰りたがらない」余韻を味わい尽くしたくなるイベントとなったのでは!?当日は130人の老若男女が参加。皆さん、集中してゲストの話を聞き、いろいろ考え、メモをとっていらっしゃいました。若手スロービジネス家である藤岡亜美さん、丸谷一耕さん、青山裕史さん、赤星栄志さんたちはそれぞれ「出会ってしまったこと」を自分に引き付けて考え、「それ」をビジネスとして展開していったという。
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4名の講師陣。
左から、赤星栄志、藤岡亜美、青山裕史、丸谷一耕 |
第一部では各ゲストが自分達がやっている事業を紹介してくれました。
藤岡さんはエクアドルのフニン村で直面したことが大きいという。人々の健康と将来を脅かす鉱山開発が日本企業によって進められていたが、村の人々はそれに対して明確に「NO」を突きつけたという。「アクションを起こして自分達の将来や運命を決めていく小さな村の人々がかっこいいと思った」。そして、「NO」だけを言うのではなく、森の中で作られたコーヒーや女性の生産者組合が現地の素材で作る雑貨をフェアトレードで日本に伝え広めていくことが藤岡さんの仕事になっていったという。例えば、一般的な貿易では1パック700円のコーヒーの売り上げは、たった14円しか生産者に届かない。これは、生産者の生活を保障する金額になっていない。中間業者を排したフェアトレードでは1パックにつき50円が生産者に届くという。これは、国際価格の約3倍に当たる。その利益によって、生産者の生活は保障され、人々の自立にもつながるという。藤岡さんはフェアトレードや農、平和、オーガニックといったことを具体的なところで訴えていきたいとのことです。 |
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丸谷さんは日本社会の雇用の95%を抱える中小企業の環境コンサルティングを仕事にしています。資金があり環境対策などに手を回せる大企業ではなく、中小企業こそ環境対策を充実させていくべきだと考えていた。が、実際にそのようなことを事業として推進している人たちはいなかった。「だったら、自分達でやろう」ということでNPO法人
木野環境がスタートしたという。コンサルティングの報酬は一般的な市場価格の3分の1から10分の1。「この価格で他の企業や行政がコンサルティングを始めたら、木野環境がやる必要がなくなるので止めます」という言葉にはビジネスとNPO的な価値が密接に結びついていることが表れている。学生の時は「〜〜反対!!」と叫んでいれば良かったという。が、環境コンサルという仕事を展開する今となっては、住民と交渉をしたり、企業をサポートしたりと全く違ったことをしているという。 |
青山さんは100年つづく「油屋」の4代目だ。ガソリンやタイヤ、エンジンオイルを売り、洗車には大量の水と洗剤を使ったりするガソリンスタンドはどう考えても環境に優しくないと青山さんは言う。けれども、いろいろな仕掛けをつくることでガススタは「地域循環のモデル」になれるとも言う。例えば、青山さんのガススタでは月に2回しか回収されない空き缶やビンを毎日回収している。てんぷら油の廃油も回収し廃油石鹸を作っている。廃油からできた石鹸で顔や身体を洗うのには抵抗があるかもしれないけれども、車なら洗える。また、今取り扱っている家庭で使い終わった廃油から作るバイオディーゼルという軽油燃料はSOxをほとんど出さない燃料だという。家庭での廃油が燃料になるという循環がここにある。バイオディーゼルを作るのに掛かるコストを考えるとどうしても1リットル当たり85円ぐらいになり、一般の軽油(1リットル75円から80円)よりも割高になってしまうという。でも、バイオディーゼルを利用しているというステッカーを車に貼るなどの工夫をすることで、福祉などの領域では10円高い燃料でも受け入れられ始めている。これは「売り手良し、買い手良し、世間良し」という「三方良し」という近江商人の考え方に通じるという。 |
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赤星さんは戦争や貧困、環境破壊といった問題は「地下資源を取り出してエネルギーにする文化」が根本原因のひとつだと考えているとのことだ。石油などのいずれ枯渇する資源を奪い合い、独り占めにしようとすることに問題がある。その対極に再生可能な地上資源がある。それは、草と木、農林水産の廃棄物からなるバイオマスエネルギーだという。大麻(ヘンプ)は、成長にかかる時間が6ヶ月と早く、一般的な樹木(6〜70年)と比べて効率的だという。さらに、ヘンプからは2万5千種類の製品が作り出せるという。オイルから繊維、プラスティック、化粧品、燃料などなど。100円ショップで売られているもののほとんどは石油から作ったプラスティック製品だという。もし、素材が出来上がるまでの時間に1年1円の環境税を掛けられるような税体系にすれば、100円ショップは2億5000万円ショップとなるという。石油は2億5000万年を掛けて蓄積された資源だからだ。でも、今は石油製品であるペットボトルは早ければ「13秒」ぐらいでゴミ箱行きになってしまうという。これはどう考えても「持続可能」ではないと赤星さんは言う。6ヶ月で育つヘンプは持続可能性と様々な可能性を備えているという。 |
第二部はパネルディスカッション。
非常に自由な雰囲気の中で、テンポ良く様々な意見やアイディアが出されました。藤岡さんは「自分の想いやアイディア」に共感してくれる人がたくさんいて、人とのつながりの中で、ビジネスをやっているとのことです。彼女の言葉で言えば、自分が共感できる「モデル」が周囲にたくさんいるそうです。彼女自身も「モデル」となっていくのでしょう。
赤星さんは「暖かく見守ってくれる人」、「応援してくれる人」「関わって喜んでくれる人」が確実に増えていると感じているとのことです。
そういった「つながり」や「サポート」の中で自分の大切にしたいことをビジネスにしてしまうのは、「楽しい」とのことです。赤星さんは「社会的な使命」というよりも、「楽しいから、好きだからやっている」と言っていました。この「楽しさ」が鍵なのかもしれません。
もちろん、厳しいビジネスの世界ですから楽しいだけではありません。丸谷さんは「始めた当初は図書券や飲食代、『勉強になるやろ』という言葉で誤魔化されることが多かった。ビジネス・パートナーとして扱ってくれなかった」と言っていました。
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たくさんのお客様が真剣に耳をかたむけていました。 |
また、「スロー」や「ソーシャル」という言葉を付けても結局は「ベンチャービジネス」という厳しさがあるとの発言もありました。赤星さんは「10分の1のコストダウンをするか、10倍の付加価値を作り出すということが出来なければ、営業などしない方が良いという世界だ」と言っていました。
青山さんも「どんどん自分から情報発信をしていかないと、情報は集まってこないし相手にされない」と言っていました。
RORキャンペーンは名古屋、函館、京都、東京、熊本、そして今回の東京と一連のイベントを行ってきました。青山さんはそういったイベントを作り上げていく地元の人々やスタッフのエネルギーに感心すると言ってくれました。赤星さんは「5年前ならこの種のイベントにこれだけ人が入ることはなかったと思う」と言っています。これは、社会的な流れとして生き方や働き方、社会や環境と調和するビジネスのあり方への感心が高まっていることと、実際に動きがあるということを意味しているでしょう。
時間の大幅にオーバーしながら活発にいろいろな話が第二部では出ました。でも、話が充実していたので、間延びした感じやお客さんが飽きている感じはしませんでした。
会場からもいろいろな反応が出されました。
実際にビジネスをやる難しさや生活を考えるとそう簡単に「好きなことをやりなさい」とか「志を大切にしなさい」とは言えないといった意見もありました。
これには赤星さんが「ここに座っている4名は社会的な意義とか志というよりも、『楽しいから』やっている。『心の底から面白い』という感覚の方が強いと思います」という意見を出しました。
他にも「自分の会社で裏紙を使うようなところから変化を作っていきたいと思う」といった意見や「ヘンプの栽培なんかをしていると怪しまれたりしませんか?」といった質問、「RORを『責任の認識』と訳すことへの違和感」などいろいろな反応をもらいました。
このイベントを通して、伝えたかったことは「みんな起業しようぜ!!」ということではありませんでした。一人ひとりが自分の好きなことや大切にしたいことに関連したアクションをしていくこと。一人ひとりが変化になっていくこと。環境や経済、社会と自分とのつながりを意識してもらうことなどでした。
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物販ブースの様子 |
スロービジネスへの関わりは、商品を買うことでのサポートや他の人に紹介すること、そういった企業で働くことやそういったNPOを手伝うこと、あるいは自分で会社を作ってしまうことなど非常に多様だと思います。一人ひとりが工夫をして、環境や社会と調和した生き方や働き方を模索していくことで、社会はより良くなっていくでしょう。
「でも、実際にはどうやって?」「私にはネットワークもノウハウもないよ」といった反応もあるでしょう。きっかけになる場は探せばいろいろあります。例えば、NPO法人ETIC.が主催する「STYLE
2004 SOCIAL VENTURE Competition」、あるいは、ナマケモノ倶楽部の世話人や理事が関わる「スロービジネススクール」などもあります。こういった動きにアクセスしていくことから何かが始まるかも知れません。
あなたを変えるのも、社会や世界を変えるのも、結局は「あなた自身」と「共感できる、いろいろなことをシェアし合える仲間」なのでしょうね。
全体のイベントが終わっても、熱気は冷めず、会場内で周囲の人と話が弾む光景がいくつも見られました。懇親会会場でも、活発に意見交換や名刺交換がなされていました。
印象的だったのは、「なかなかお客さんが帰ろうとしない」ということ。会場の運営を考えるスタッフとしては「困った」けれども、そのエネルギーと充実感は嬉しいものでした。
最後になりますが、キャンペーンを一緒に作ってきたナマケモノ倶楽部RORスタッフとETIC.サイドの皆。当日のイベントを大いに支えてくれたボランティアスタッフの皆。素敵な話を持ってきてくれたゲストの方々。いろいろとお世話になった内田さん。来場してくれたお客さん。ありがとう!また、一緒に何かやりましょう。(後藤彰)
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